氷中花
11


大使館かと思われるようなしばらく続く白く高い外壁。
各務の車が行き着いたのは外壁の終わりにある大きな門の前だった。
携帯を鳴らすとすぐに誰か出たようだ。

「俺だ。開けてくれ」

各務の声に反応するかのように門は自動で開かれた。
ずいぶんセキュリティの高い建物のようだ。
いったい何の施設だろうと驚きながら唯は呆然としていた。
敷地内にいくつかある建物のひとつの前に車を止めると、
各務はそこで待っていた男に車のキーを渡し、唯をエスコートして建物の中に入った。
赤い絨毯に唯は動揺してしまう。
いくらドレスアップしたといってもここに自分は場違いなのではないだろうか。
不安げに各務の顔を見上げると長身の各務は身をかがめて唯に目線を合わせた。

「そんな顔をするんじゃない。似合っているといっただろう」

表情は相変わらずの冷たいものだったが、見たことのないような熱い眼差しをしていた。
唯は各務に促されるように背筋を伸ばした。
なるようになれ、かもしれない。
長い廊下の先に開かれた扉を震える脚でくぐった。

中は立食形式のパーティ会場のようだった。
フォーマルないでたちの人々が各務と唯を見てざわめく。
年齢層は高めだ。
とても高校生が紛れ込むような場所ではない。
各務は唯の腰に腕を回すと、ある人物の元へまっすぐ歩いていった。
唯は転ばないように着いていくのがやっとだ。
周りに目をやる余裕もなかった。
各務が止まったので目を上げると各務に並ぶほどの長身の男性がいた。
年齢は各務より少し上くらいだろうか。
唯に目を向けると男はびくっとしたように身を震わせた。
品のいい身なりだが目元には陰鬱なものを漂わせている。

「そちらは・・・」

男は擦れた声で各務に問うたが各務は唯が今までに見たこともないような眼差しで男を見た。
表情の冷たさとは裏腹に燃えるような、もの言いたげな目つきだった。
唯の知らない各務がそこにはいた。

「俺の女だ」

唯はぎょっとしたように各務を見上げたが、
各務はそれを無視して唯の腰に回した腕の力を強めた。
目の前の男は明らかに顔を歪めて各務を怯えたようにみつめた。
各務は冷めた微笑を浮かべると急に向きを変えて近くのグラスを取り、
そのまま部屋の出口へ向かった。

唯の速度にあわせて歩くわけではないので、
長身の各務の歩幅にあわせるのに唯はずいぶんな労力を要した。
長い廊下と螺旋階段を経てたどり着いたのは建物の三階にある客室のようだった。
遠慮なく扉を開けると唯を放り出して各務は窓辺の一人がけソファに座り、
グラスのワインを一気にあおった。
自分の世界に入っているマイペースな各務を見て唯は急に気が抜けたのか、
そのまま靴を脱いで向かいのソファに腰掛けた。







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