氷中花
17


A4サイズの紙に印刷された資料を机の上にどさりと置くと、
各務は唯の顔を覗き込むようにして目を合わせた。

「これを半分に折って」
「はい」

各務の強い視線から早く逃れたくて唯は手元のプリントに目をおとした。
近代ドイツ史の資料を一部コピーしたもののようだ。
本来なら目を通してみたいものかもしれないが、今の唯には文字を追う心の余裕がなかった。
さっさと折ってここを出ようと決めると、唯は手元の資料を手早く折り始めた。
各務の顔は唯の至近距離で止まったままだ。
視線を気にしないそぶりで作業するのは唯にとって辛い時間だ。

「先生」

我慢できなくなって声をあげる。

「もう少し、離れていただけませんか」

唯の言葉に各務は口元を歪める。

「どうして」

そんな返答がかえるとは思わず、唯は動揺してしまう。

「どうしてって・・その・・」

ふいに各務の手が唯の胸元に伸び、抱きすくめられる。
顔は唯にくっつきそうなところで止まったままだ。

「先生なんて、今は呼ぶな」
「だって、先生は先生で・・・」

唯の唇に触れる冷たい唇。
それ以上言葉を紡がせないように強くふさがれ、舌が挿し込まれる。

「んっ」

制服のブラウスの上から胸を揉まれ、唯は身を捩らせる。
舌に咥内を犯され、じわじわと身体の奥が熱を持つのを感じ、唯は赤面してしまう。
この熱を各務には知られたくないと思った。
だが各務の舌は執拗に唯を追う。
追い詰めて、逃げられないところまで。

各務が唇を離したとき、唯はその身に力が入らず各務にもたれるようにして息を漏らした。

「はぁ・・」

各務は唯の首元に顔を埋め、くすりと笑った。

「敏感だな」
「・・・」

唯はこれ以上はないというほど真っ赤になって固まってしまう。

各務の指がスカートの中に潜り、唯のデリケートな部分に触れる。

「や・・」

くちゅりといやらしい音が準備室に響く。

「俺の椅子をこんなに濡らしておいてなにを」

クククと笑う各務の僅かな揺れが唯にも伝わる。
唯は恥ずかしくてそのままきゅっと目を瞑った。
各務の人差し指が唯の中に挿れられ、唯が声を漏らしかけたときだ。
準備室の扉が二回ノックされた。

「はい」

各務は唯の中に指を残したまま応える。
扉がガタガタと軋んだ。
ノックの主が開けようとしたのは明らかだった。
唯は小さく震えた。

「あれ、この扉」

声を聞いてさらに動悸がひどくなる。
この声は、望月和輝のものだ。
唯にはすぐにわかった。

「すみません、テスト問題を扱っていたんで鍵かけていたんです。今ちょっと手が離せなくて」

しらっと言い放つ各務に唯はぎょっとする。

「あ、連絡だけなんでいいですよ。明日の職員会議四時半からに変更になったんで」
「わかりました」
「おねがいします、それじゃ」

和輝の去る足音を聞きながら、各務の指が唯の深いところで動いた。

「・・っ」

扉の向こうには和輝がいるのに。
必死に声を漏らさないように耐える唯は各務の白衣にしがみついた。






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