氷中花
22


辿りついたのは別荘のようだった。
各務が車を止めていると玄関の扉が開いて、格好からメイドを思わせる女性が現れた。
「お待ちしておりました」と一礼する。
唯は慌てて会釈をかえすがメイドは一瞬固まったように唯を見つめた後、
各務の顔を窺うようにした。

「俺の客だ。失礼のないように」

薄く冷たい笑みを浮かべる各務に「かしこまりました」と応えるとそのまま室内へ案内した。
唯は困惑しながらも各務のあとに続いた。



唯と各務は二階にある部屋へ入ると、メイドは一礼してさがっていった。
窓の向こうに日が沈んで行くのが見える。
唯は窓際に寄ってそれをじっとみつめた。
滲んだ赤が胸の中のもやもやをさらに拡散していくようだった。

「これに着替えて」

背後から声をかけられ、唯は振り向いた。
各務が咥え煙草で右手のドレスを持ち上げた。
先日とは違うドレスで淡い紫のオーガンシーが舞うようなドレスだった。
唯は困ったような顔で各務を見上げる。

「今日はどこに連れて行かれるんですか?」

先日の情事を覗かれた事も、それを各務が知っていて黙っていた事も唯は許せていなかった。
同じような目にあうのだけは避けたかった。

「俺と週末を過ごすだけだ。不満か?」

凍えるような眼差しでじっと見つめられると、唯はなにも言えなくなってしまう。
彼のように眼に力のある人を唯は知らなかった。
冷たいのに、その底に熱を感じる眼差しだった。

「週末って言うと私、泊まるんですか?親に何も・・・」
「今から入れればいい」
「言い訳は?」
「世界史補講にしでもしておくか?」

クククと笑う各務を呆れたようにみあげた。

「すぐばれますよ」
「そうか」

各務はドレスを腕にかけたまま唯のコートを脱がしはじめる。
中の白いスーツに目を留めるとふっと唯に視線をあわせた。

「珍しいな、こういう格好もするんだな」

唯はかっと頬を染めた。
各務のためにそういう格好をしたんだなんて口が裂けても言いたくなかった。

「こういうのもいいな。このまま行くか?」
「せっかく用意してあるならそっちで・・・」
「こんなの気にしないでいい。行くぞ」

ドレスをベッドに放り投げると唯に背を向けて各務はさっさと歩き出した。
慌てて唯も後に続く。



車に乗せられ、移動している間に姉の芽衣あてにメールを送った。


ー今日外泊することになりそうなの。お母さんたちに伝えておいて。


言い訳するとかえって怪しまれると思い、事実だけにした。
芽衣から和輝にどう伝わるかは不安だったが、
和輝との距離を置くにはいいことかもしれないと思った。
唯は隣の運転席にいる男に今夜はついていくことになるのだから。




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あなたの隣氷中花 枯れない花星に願いを Sugar×2太陽が笑ってる


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