氷中花
30


身を捩って一樹の頬にくちづけた。
唯の想いを感じたのか、一樹は眼を閉じたまま彼女を抱き寄せた。
触れ合う肌のぬくもりは湯の温度より確かなあたたかさを伝えた。

言葉を紡ぐ事もなく、ふたりは互いをやさしく抱きしめた。
唇はどちらからともなく触れては離れ何度も結ばれた。

言葉はなかったがお互いの気持ちが今ほど近いことはなかったと思った。

一樹の細い指でほぐされた唯の身体に熱い塊が挿ってくる。
つけていないソレは初めてで、その生暖かい感触に唯はどきりとする。

「あぁ・・」

妊娠の危険度が上がった事は頭ではわかっていたが一樹との密着間は唯を思考停止させた。
浴室に響く水音と二人の交わる音がいやらしく聞こえた。
浴槽に腕を支えにして後ろから抱かれる唯の身体は
その気持ちよさに崩れ落ちそうになってしまう。
一樹の腕が唯を力強く支え、僅かに向きが変わった。
そのときバスルームの鏡に映る自分と一樹の姿に気づき唯の熱が上がった。
筋肉質な一樹の腕に抱かれる小柄な自分の貧弱な身体。
出し入れされる一樹のソレ。
ああ、自分たちは本当につながっているんだと身体の奥がきゅんとした。

「ん・・だめ・・あぁ」

唯のほうが先にイってしまう。
その刺激に一樹が擦れた声を漏らす。

「唯・・・もう・・」
「あ・・でも・・あぁ・・・赤ちゃんできちゃ・・・」

唯の言葉に僅かに動きを止めて冷めた笑みを浮かべる一樹。

「結婚でもするか」

低く色っぽい声が唯の耳元をくすぐる。
それはひどく甘い言葉なはずなのに唯の胸に突き刺さった。
永遠を誓いたい相手はお互いに違ったはずなのに
それでも自分たちの人生は交わることができるんだろうか。
和輝を心に残したまま、自分は一樹に人生を委ねられるんだろうか。

答えは、否だ。

唯は急に頭がすっと冷えた気がした。
熱く火照った身体から一樹のものが抜かれ、お尻の辺りに生温いものがかかるのがわかった。
はぁはぁと荒い息をしながら、唯は一樹の顔を見るのが怖くなった。
後ろから抱きしめてくれるその腕が愛しいのに、
このままではその腕をとって一緒に歩むことができないことがわかってしまった。
自分たちは結局ごまかしているだけなのかもしれない。

彼のことを知るのが怖かった。
自分の知らない彼を知らされるたびに距離を感じずにはいられなかった。
それでも、一樹と歩いていくためには知らなければならないことがあるんだろうと
唯は絶望にも似た気持ちで感じていた。

「一樹(かずき)さん」
「唯?」

唯は顔をあげないまま向きを変え、一樹の胸に顔を押し付けるようにした。
泣き顔は見られたくなかった。
両腕を一樹の背中に回してきゅっと抱きしめた。

この人ときちんと恋がしたい

そう思った。
不安も恐怖も嫉妬も
いまはすべてを乗り越えたいと
そう祈りにも似た気持ちで。

唯の背に回された一樹の腕はあたたかかった。



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