氷中花
38


「唯、まだか?」

低音の呼び声がやや怒っているように感じられて唯は「はぁい」と慌てて返事をした。
ホテルの部屋には露天風呂がついていて、一樹は既に一人で入っていた。
一緒に入るかという一樹に照れてしまいなんとか後から入ることで許してもらったのだ。
だが改めてひとりで向かうというのも気まずいものだ。
唯は二度目の一樹の声が聞こえて、諦めつつ慌てて制服を脱いだ。
皺にならないようにハンガーにかける。
そしていまさらなことに気がついてしまった。
今回は換えの洋服も下着も用意していない。
バスルームで後でコッソリ洗うしかないかと思い、唯は着ていた下着を丸めて籠に入れた。
胸元でリングが揺れるのを感じていたが、ふっと違和感を覚える。
見ると鎖が切れ、リングが小さな音を立てて床に落ちるところだ。

「やっ」

唯は咄嗟に小さな悲鳴をあげてしまう。
屈んですぐに指輪を拾ったがなぜだか急に動悸が酷くなった。
自分の心臓の音の大きさに驚いてしまうほどに。

「どうした」

屈みこむ唯を見下ろす影が長く伸びた。
腰にタオルを巻いただけの姿で一樹が現れる。
唯は心細そうな目で一樹を見上げた。

「ネックレスのチェーンが切れて・・・」
「貸してみろ」

唯の手から切れた鎖と指輪を受け取り見ると、一樹はため息をついた。

「このままじゃだめだな。だいたい指輪の重さに比べて鎖が細すぎるんじゃないのか」

そう言いながら指輪を唯の左手の薬指にはめる。

「明日新しい鎖を買ってやる。休み中だし指にはめていても問題ないだろう」
「そうですね」

唯の左手をそっと持ち上げ、薬指の指輪の上辺りに一樹が唇を落とす。
そのくちづけはスイッチのようだった。
自分の今の格好を思い出して唯は急に羞恥心に包まれた。
慌てて両手で身を隠そうとするが一樹の手に止められてしまう。

「あの・・お風呂に・・」
「連れて行ってやる」

唯が拒む間もなく、高い位置で抱きあげるとそのまま露天風呂に続く曇りガラスの扉を開けた。
唯は湯上りの一樹の上気にあてられたのか、かぁっと熱くなってしまう。
桧風呂を通り過ぎて外壁代わりの柵の手前にあるウッドベンチに向かうと唯をゆっくり座らせた。
二人の位置からは最上階だけあって満天の星空が臨める。
そして下には月明かりに輝く海が見えるはずだ。
だが一樹は唯にそれらを見せる前に自らの顔を触れそうな距離まで近づけると

「待たせた罰だ。先に俺を愉しませてくれるんだろう」

そう言って意地悪な笑みを浮かべ貪るようなくちづけをした。

「ん・・・かず・・」

唯の言葉は続かない。
一樹の舌が唯の舌と絡み合って踊り、そのまま何も考えられなくなってしまう。
触れ合う快感は気持ちを伴うことで前より一層深まっていた。

唯の両脚の間に身を割り込ませると一樹は左手で唯の胸を揉みしだいた。
唇は唯の首筋を辿り、鎖骨へおり、やがて胸の頂へと辿りついた。
右胸の頂に音を立ててくちづけると唯が身を捩った。

「あ・・だめ・・あん・・」
「だめじゃないだろう、こんなにして」

一樹の腹部に当る唯の身体はすっかり熱く潤っていた。
右手をそこにおろし一樹の長く細い指で奥までかき回すと
唯は真っ赤になりながら甘い声を漏らす。
その声に誘われるように何度も指を上下させた。
指だけで最初の波を迎えてしまう。

「あぁ・・・」

身体を震わす唯にくすりと笑みを落とすと一樹は桧の床に腰を下ろし、
唯を跨がせるようにしてベンチからおろした。
まだ息の荒い唯は一樹にしがみつくようにしている。

「一人で愉しむのはずるいだろう。ほら、入れてみろ」
「え・・・」

唯の手を掴み一樹の熱くなったものを握らせると
さすがに意図がわかったのか頬を染めて首を振る。
その仕草に鼓動が早くなった一樹は唯の細い腰を両手で持ち上げると

「最初だけ手伝ってやる」

と言うと先端を唯の中に埋めるようにして唯の腰を下ろした。

「あぁ・・・あ・・」

まだイッたばかりの唯には刺激が強すぎたのかそのまま力を入れられず
結局拒めないまま一樹を最奥まで受け入れてしまう。
その深い刺激に唯は溺れてしまうようだと思った。

「動かしてみろ、こうして」

最初の何回かは一樹が唯の腰を上下させていたが、
そのうち唯自身がその身を動かすようになった。
恥ずかしさは残っているようで頬は赤く染めたままだったが
快感を負う本能が先行したようだ。

「あ・・んん・・一樹さん・・・あぁ・・」
「唯・・・」

色っぽい一樹の眼差しに唯は胸が熱くなる。
こんなに自分が乱れた姿をしてしまうことも信じられなかった。
僅かに頬を染め時折吐息を漏らす一樹に快感を与えられるのが自分だということが嬉しかった。

「いい?」
「イイよ・・・」

今なら一樹の子供を宿してもいいとさえ思った。
深く深く繋がりあって、ずっと離れたくないと思った。

「大好き・・・」

小さな声で呟いた唯に応えるように一樹が深いくちづけを落とす。
そのまま二度目の絶頂を迎えた唯を抱きかかえながら一樹も小さく囁き返したが
唯にはその声は届かなかった。
一樹は微笑んだまま唯をやさしく抱きしめた。



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