氷中花
49


大きく響く終礼のチャイムに二人はびくりと身体を震わせた。
学校内だということを急に思い出し、慌てたように和輝は唯の身体を離す。
頬が僅かに赤く染まっていた。

「唯、その格好だと今日は授業受けるつもりはなかったんだよな?」
「うん」
「早退の届けだしてくるから俺の車のところで待っていて。場所を変えよう」

わざとぶっきらぼうな口調でそういうと和輝は唯を残して非常扉を開け
職員室へと走っていった。
唯はまだ濡れたままの頬を拭うと、深く深呼吸してから人目につかないように靴箱へと向かった。
だが休み時間に入ったばかりなので一階なのに廊下には人がいた。
体育の授業で校庭に向かう生徒たちの一群を見て、
いなくなるまで少し待とうと近くにあった教員用トイレに身を隠した唯は
背後から何者かに口元を抑えられ、慌てて身を捩った。
唯の抵抗に相手は動じずそのままトイレの個室に連れ込まれてしまう。

「ゃ」
「痛・・・」

抑えていた相手が慌てたように手を離す。
唯は荒い息をしながら怯えた目で相手を見上げた。
だが見上げた相手は唯の予想とは全く異なる人だった。
スーツの上に白衣を身につけたその人は、
唯が会いたくてたまらなかった各務一樹その人だった。

「一樹さん?」

唯は呆れたように声をこぼした。
一樹は唯に噛まれた指を苦笑しながら上げる。
視線がすさまじく冷たい。
一樹のそんな表情を初めて見て唯はどきりとしてしまう。
相当怒っているのだろうか。

「おまえ、思いきり噛んだな」

一樹の言葉に唯は青くなる。
暴漢だと思ったとは口に出せなかった。

「・・・ごめんなさい」
「許さない」

一樹は唯を便座の蓋の上に座らせると両手で強引に脚を開かせた。
フレアスカートをはいていたため唯の下着が一樹の目に晒されてしまう。
その視線はいつものような唯だけに見せる甘やかなものではなく酷く冷たいものだ。
唯はぞくりとするのを感じた。
そして和輝との約束を思い出し慌てたように脚を閉じようとする。

「だめです、私行かないと」
「・・・唯」

今聞かなければ和輝は話してくれないかもしれないと思った。
両親や冬夜から唯がまだ真実を知らなかったことを聞かされる可能性は零ではなかった。
そうなってからでは遅い。
全部真実がわかってから一樹には説明しようと思った。
今の状態では唯もうまく話せる自信がなかったというのもある。

「一樹さん、ごめんなさい。私・・・」

不意を着いて一樹の強い腕を振り解くと唯は個室から出てそのまま振り返ることはなかった。
残された一樹は俯いて小さくため息を漏らす。
唯に噛まれ赤くなった指先を見て自嘲した。
腕の中の温もりはもう消えていた。



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