氷中花



唯の額に、頬に、涙に落ちる口づけ。
そのやさしさに、さらに涙は深まるようだった。

「すべて、洗い流してしまえ」

男の声は呪文のようだった。
唯がずっと心の中で祈っていたこと。



凍えた指を絡めあった。

触れた唇は冷たく、甘かった。

湿ったシャツの匂いは、体温が上がるに連れて男の香水の香りに変わってゆく。
何の香りだろう、これは。
甘く、唯をうっとりさせる。


初めて、唇をかさねた。


ファーストキスは好きな人と。
そんな風にずっと思っていた唯を、唯は消してしまいたかった。
永遠に手に入らないひとだから。

「忘れたいの、ぜんぶ」

男は何も言わず、唯の唇に重ねた想いを深めた。
体中が熱を持つような、熱いくちづけ。
何度も、何度も。
男の執拗なキスは唯の理性を拭い去ってくれた。

熱い身体に触れるのは冷たい指。
その指が肌を辿るたびに、唯は身体がぞくぞくするのを感じた。
唯の誰も触れたことのない部分に触れ、探るように動く。

突きあがる快感の中、激しい痛みが襲う。

「あぁっ」

それでも構わないと、思った。

男の寒さは自分と同じだと思った。
いや、もしかしたら男のそれの方がもっと深いのかもしれない。
こんなに寒そうな眼をした人を唯は知らなかった。

「・・名前、呼んで」

男のかすれるような声に、唯は熱い吐息をこぼす。

「名・・前?」

「かずき・・・」

男の言葉に唯は動揺を隠せない。
よりによって同じ名前なのか、この男とあのひとは。
唯の涙は最初から止まることはなかったが、

「かずき・・」

荒い息の元、ようやくつぶやくように言った唯の言葉に
男は初めて涙をこぼした。

男の中の何かが溶けたようだった。



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あなたの隣氷中花 枯れない花星に願いを Sugar×2太陽が笑ってる


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